■ガタガタ、ギシギシ
夜になった。
父は、予定どうり最終の電車に乗り帰った。
「それじゃもう寝ようか」と叔父。
「ぼくちゃんはこの居間に布団を引くから」
「一人で寝れるよね」
大きなこの居間で一人で寝るということは初めてだった。
なにしろぼくの住む東京の家は団地だ。
居間といっても四畳半ぐらいの広さだ。
それに比べてここは十畳以上ぐらいあるんじゃないかと思った。
そんな広いところに一人。
心細いのはもちろんのこと、なぜか暗いこの家に慣れなかった。
そんなことを考えていると叔父はなにか持ってきた。
「蚊がでるからこれをつるよ」
部屋の四隅にフックがありそれに持ってきた物を引っかけながらつるしていく。
これは何だろうと思っていると。
「これは蚊帳だよ」
「かや?」
「そう、虫が入ってこないようにこうしてつるしてこんな風に入るんだよ」と言うと叔父はその蚊帳の下の方からささっと開けて中に入った。
それはまるで大きな虫かごのようだった。
「おやすみ」とおばあちゃんが布団をひいてから二階に上がっていった。
ぼくはすぐ布団に潜り込んだ。
回りは静かでどこからも音が聞こえない。
ふと気がつくと蚊帳越しになにか見える。
どうやら写真のようだ。
白黒の写真が鴨居の上に飾ってあった。おじいさんの写真だ。
その写真がだれのものかしらないけどそれは、まるでぼくを見ているような気がして思わず布団を顔までかぶった。
静かさとその写真のせいでこのままじゃ眠れないと思っていたがやがてうとうとと眠ってしまっていた。
どのぐらい時間がたったのであろう。
蒸し暑さとなにかの音で目が覚めた。
いつのまにか外では風が吹いてたようだ。
そのせいでこの古くなった家がきしいでいるのだ。
木でできていた雨戸が大きな音を立ててギシギシガタガタと大きな音を立てているのだ。
その音を聴いてるとまるでなにか大きな動物の鳴き声みたいで怖くなって眠れない。
ぼくは暑いのに布団を頭までかぶりその音を聴いていた。
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